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大阪高等裁判所 平成7年(ネ)3166号 判決 1998年1月20日

控訴人

星野恒徳

外四名

右五名訴訟代理人弁護士

岡豪敏

上原茂行

土谷喜輝

井原紀昭

髙田勇

佐度磯松

被控訴人

鹿島興産株式会社

右代表者代表取締役

山本広志

被控訴人

山本幸男

右両名訴訟代理人弁護士

西村文茂

村上公一

主文

一  控訴人星野恒徳、同星野文子、同星野小夜子、同植田光男の本件控訴をいずれも棄却する。

二1  原判決中控訴人太田博に関する部分を取り消す。

2  被控訴人らの控訴人太田博に対する請求をいずれも棄却する。

三  控訴人星野恒徳、同星野文子、同星野小夜子、同植田光男と被控訴人らとの間で生じた控訴費用は右控訴人らの負担とし、控訴人太田博と被控訴人らとの間で生じた訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  事案の概要

事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実及び理由欄「第二 事案の概要」(原判決二枚目裏七行目から一一枚目裏九行目まで)記載のとおりであるから、ここに引用する。

一  文中「原告」とあるを「被控訴人」と、「被告」とあるを「控訴人」と、「別紙」とあるを「原判決添付別紙」と各訂正する。

二  二枚目裏八行目及び九行目「同社」の前にいずれも「当時の」を付加する。

三  三枚目表五行目「求めた」の次に「(ただし、内金一億円については各訴状送達の日の翌日から、内金九一六四万五〇〇〇円については、訴え変更申立書送達の日の翌日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払も求めた。)」を付加し、同裏一行目「株主である。」とあるを「株主であり、平成三年九月六日当時自動車学院の取締役であった。」と訂正する。

四  三枚目裏一行目と二行目の間に次のとおり付加する。

「控訴人らの地位、立場(ただし、自動車学院の代表取締役、取締役、株主については平成三年九月六日当時のそれであり、その後、後記のとおりの変動があった。)は次のとおりである。」

五  四枚目表二行目「自動車」の前に「平成五年九月ころまで」を、同裏一行目「金融機関」の前に「平成三年九月一一日、」を、同三行目「兵庫銀行」の前に「ただし、長期貸出標準金利[長期プライムレート]の改訂があった場合、改訂のあった日以降最初に到来する利払分からその改訂幅で改訂する。」を各付加する。

六  五枚目裏五行目と六行目の間に次のとおり付加する。

「6(一) 自動車学院は、平成八年一一月二七日、臨時株主総会を開催し、本件決議がされた平成三年九月六日付け取締役会に出席した取締役である控訴人星野恒徳、同太田博、同星野文子、同星野小夜子及び同植田の商法二六六条一項四号の責任を免除する旨の議案を付議したところ、右控訴人ら五名を含めた三二〇株の株主が賛成し、被控訴人らを含む一四〇株の株主が反対したので、出席株主の議決権の三分の二以上の多数の賛成があったとして、右議案が可決された(以下、右決議を「第一免責決議」という。)。

(二) 被控訴人らは、第一免責決議が特別の利害関係のある株主である右控訴人ら五名において議決権を行使したことによってなされた著しく不当なる決議に当たるとして、神戸地方裁判所尼崎支部に対し、第一免責決議の取消請求訴訟を提起した(同裁判所同支部平成九年(ワ)第二号、株主総会決議取消請求事件)。

7(一) 控訴人星野恒徳、同星野文子は、平成九年一月二一日、自動車学院の取締役(控訴人星野恒徳は代表取締役を辞任した。)を辞任し、同月二二日、控訴人太田博が代表取締役に就任した。

同年二月一五日、自動車学院の定時株主総会で山口真一、高江修身、中吉光明、濱口典俊が新たに取締役に選任され、監査役二宮千代美が退任し、その代わりに控訴人星野文子が監査役に就任した。

(二) ネオ・ディ、控訴人星野恒徳及び、同星野小夜子は、その所有する株式の名義を全て株式会社新日ユニオン(以下「新日ユニオン」という。)に移転し、控訴人星野文子は、その所有する株式四〇株のうち、三五株の名義を新日ユニオンに、五株の名義を中吉光明にそれぞれ移転した。また、控訴人植田は、その所有する株式一六株のうち、五株の名義を山口真一に、五株の名義を濱口典俊に、六株の名義を高江修身にそれぞれ移転した。さらに、二宮千代美は、その所有する全株式四株の名義を新日ユニオンに移転した。これらは、平成九年二月一五日に開催された自動車学院の取締役会で承認された。

(三) 自動車学院は、平成九年三月二八日、臨時株主総会を開催し、第一免責決議と同じ議案を再度付議したところ、新日ユニオンを含む三二〇株の株主が賛成し、被控訴人らを含む一四〇株の株主が反対したので、出席株主の議決権の三分の二以上の多数の賛成があったとして、右決議(以下「第二免責決議」という。)が可決された。

(四) 被控訴人らは、第二免責決議が特別の利害関係のある株主である新日ユニオンにおいて議決権を行使したことによってなされた著しく不当なる決議に当たるか、右大株主である新日ユニオンが自動車学院の利益を犠牲にして自己又は第三者の個人的利益を追及した著しく不公平な内容の決議に当たるとして、神戸地方裁判所尼崎支部に対し、第二免責決議の取消請求訴訟を提起した(同裁判所同支部平成九年(ワ)第三六二号 株主総会決議取消請求事件)。」

七  五枚目裏六行目「主要な争点」とあるを「争点」と訂正する。

八  六枚目表三行目末尾の次に以下のとおり付加する。

「国土利用計画法(以下「国土法」という。)所定の事前確認は、事前確認の申請額が相当な価額に比して著しく適正を欠く場合でない限り行われるのであるから、本件取引の本件不動産の購入価格が事前確認額より減額されているからといって直ちにその価格が適正であるということにはならない。そして、本件取引の場合、その取得原価は建物代金が二億三一七〇万円であるにもかかわらず、右事前確認の際には建物価額を四億五四八一万一〇〇〇円(千円未満切捨て)に水増しして申請しているし、本件取引の時期も右事前確認の有効期限の最終日の前日である。」

九  六枚目裏一〇行目「不動産鑑定士」の次に「蔭山博」を付加する。

一〇  七枚目表二行目「ことなど」とあるを次のとおり訂正する。

「こと、参考となる取引事例に比較しても本件土地の購入価格は高いとはいえないこと、本件不動産の売却によるネオ・ディの粗利益率約三三パーセントが高くはないこと、本件不動産の家賃利回りが年3.01パーセントと高いこと、本件不動産の購入価格が平成二年九月八日付けでされた国土法に基づく事前確認額(平成三年九月七日が有効期限)よりも12.2パーセント(これは、大阪圏の平成二年九月から一年間の住宅地の地価の変動率15.3パーセントとほぼ同一である。)減額されていることなど」

一一  七枚目裏四行目「節税」の前に「自動車学院の」を各付加する。

一二  七枚目裏七行目末尾に次のとおり付加する。

「そもそもネオ・ディは、自動車学院の親会社であり、自動車学院の銀行からの借入れ(本件不動産の購入に当たって借り入れた債務を含む。)につき物上保証人になっており、控訴人星野恒徳は、右債務について連帯保証している。また、ネオ・ディは、自動車学院設立の当初から自動車教習所の広大な敷地の相当な部分を自動車学院に貸与し、しかも、自動車学院の設立の当初から数年間は賃料を無償にしてきた。このように、自動車学院にとって不利益な行為は、ネオ・ディや控訴人星野恒徳にとって不利益な行為と同一視できるのであり、ネオ・ディや控訴人星野恒徳が自動車学院のために不利益な行為をするはずがない。

そして、現に、本件不動産の購入により、建物の減価償却費用や右購入のための借入金に対する支払利息も所得から控除されるので、自動車学院にとって、平成三年一一月期以降毎年一〇〇〇万円から二〇〇〇万円以上の節税になっており、平成七年一一月三〇日までの間の節税額は八五八四万〇三五六円になっているし、本件不動産の利回りは年3.01パーセントであり、固定収入の確保という点でも大きな意味を有している。平成七年一一月三〇日までの右節税額約八五八四万円と本件不動産の家賃収入約七八八八六万円の合計一億六四七〇万円はその間の支払利息の合計一億四六四六万四二九五円を約二〇〇〇万円近く上回っている。

また、平成三年九月六日当時、ネオ・ディは、平成三年下期から平成四年上期にかけて(平成三年四月一日から平成四年三月三一日まで)、約六六億円の営業収益があり、当期利益も約三七〇〇万円あり、借入金の返済も遅滞しておらず、金融機関からも多額の追加融資がされているのであり、未だその経営状況は悪化しておらず、同社の資金繰りが苦しくなったのは平成四年四月以降である。」

一三  八枚目二行目から三行目までを次のとおり訂正する。

「争点2―控訴人太田を除く控訴人らの責任」

一四  八枚目表六行目「被告ら」とあるを「控訴人太田を除く控訴人ら」と、同八行目から九行目にかけて、同一〇行目、同裏二行目、同四行目、同九行目及び同一〇行目「被告ら」とあるをいずれも「右控訴人ら」と各訂正する。

一五  八枚目表九行目と一〇行目の間に次のとおり付加する。

「3 商法二六六条一項四号の責任と同項五号の責任は併存するのであり、右控訴人らには、取締役としての善管注意義務違反及び忠実義務違反が認められるので、同項五号の責任が認められ、第一及び第二免責決議は同項五号の責任を免除するものではない。」

一六  八枚目裏八行目「困難な時期であった。」とあるを「困難な時期であり、地価は横ばいのままか、下落傾向で推移するとの認識が一般的であった。」と訂正する。

一七  八枚目裏一〇行目と末行の間に次のとおり付加する。

「3 本件取引は取締役会の承認を得ているから、控訴人らの責任については、商法二六六条一項四号の責任の問題となり、同項五号の責任の問題ではないところ、第一及び第二免責決議で同項四号の責任が免除されている。また、仮に、右控訴人らに同項五号の責任が問題になるとしても、前記のとおり、右控訴人らに過失があるとはいえない。」

一八  九枚目裏二行目と三行目の間に次のとおり付加する。

「さらに、前記のとおり、自動車学院は、本件不動産を固定収入の確保、節税という目的で購入したのであり、平成七年一一月三〇日までの間の右節税額と本件不動産の家賃収入の合計はその間の支払利息の合計を約二〇〇〇万円近く上回っているが、このような利益は今後も継続していくのであるから、本件不動産の購入価格が客観的な評価額を上回っているとしても、自動車学院に損害が生じているとはいえない。」

一九  九枚目裏九行目「否かの権限」とあるを「否かを決定する権限」と、一〇枚目表一行目「漫然と」あるを「本件取引が法令に違反する疑いがあることを十分に認識しながら、漫然と控訴人星野恒徳の思惑どおりに議事を進行させ、」と各訂正する。

二〇  一〇枚目表四行目と五行目の間に次のとおり付加する。

「そして、取締役会の議長としての職責を措くとしても、控訴人太田が取締役として取締役会に出席しながら、本件取引に係る議案について何ら意見を述べることなく棄権したこと自体、取締役としての監視義務違反の責任を免れることができない。」

二一  一〇枚目表五行目「被告ら」とあるを「控訴人太田」と各訂正する。

二二  一一枚目裏一行目と二行目の間に次のとおり付加する。

「また、控訴人太田に取締役会の議長ないし取締役としての義務違反があるとしても、控訴人太田が取締役会の議長ないし取締役として本件決議に反対意見を述べても多数決で本件決議が採決されていたことは明らかであり、また、本件決議を採決に付さなかったとしても、控訴人星野恒徳は、議長を他の取締役に交替させた上で本件決議を多数決で採決したことが明らかであるから、右義務違反と自動車学院の損害との間に相当因果関係はないということができる。

4 控訴人太田は取締役議長としてではなく、取締役として本件取引に係る議案についての監視義務違反が問われる以上、右控訴人の責任は商法二六六条一項四号の責任の問題となり、右責任は第一及び第二免責決議で免除された。」

二三  一一枚目裏二行目と三行目の間に次のとおり付加する。

「(被控訴人らの主張)

本件決議のされた平成三年九月六日開催の取締役会については、本件取引の内容が招集通知書に具体的に記載されていなかったし、当初被控訴人(兼被控訴人鹿島興産代表者)山本幸男は、脳出血によって緊急入院し、絶対安静が必要であったため、右取締役会への出席は不可能であった。また、そもそも取締役の代理出席を認められていない。

したがって、被控訴人山本幸男が右取締役会に欠席しながら、被控訴人らにおいて本件訴訟を提起することは信義則違反にはならないというべきである。」

二四  一一枚目裏九行目末尾の次に改行の上以下のとおり付加する。

「争点6 控訴人らの負担すべき損害額について

(被控訴人らの主張)

控訴人ら以外の取締役や他の第三者が損害賠償責任を負うとしても、控訴人らの負担すべき損害額が減額されることはない。のみならず、前記のとおり、被控訴人山本幸男が本件決議のされた平成三年九月六日開催の取締役会に欠席したことで取締役としての責任は負わないというべきである。

(控訴人らの主張)

仮に、控訴人らに損害賠償責任が認められるとしても、控訴人ら以外の自動車学院の取締役のうち、被控訴人山本幸男、中村敏明、今西永兒は、本件決議がされた取締役会に欠席し、しかも、後日取締役会を招集し、本件取引について再審議を要求したり、自己の反対意見を述べる等をしなかったのであり、木谷は取締役会で本件決議に賛成したのであるから、控訴人らと同様な責任がある。したがって、控訴人らで本件取引による損害額の全額を負担しなければならないというのは公平に反する。

また、本件取引による本件不動産の価格は、国土利用計画法による事前確認額より相当に減額されており、かつ、不動産鑑定士蔭山博の鑑定に基づいているのであるから、自動車学院は、本件取引に関し、兵庫県及び神戸市、不動産鑑定士蔭山博に損害賠償債権を取得していることになり、したがって、控訴人らが負担すべき損害額から右第三者に対して有する損害賠償債権の額を控除すべきである。」

第三  証拠

原審及び当審における証拠関係目録記載のとおりであるから、ここに引用する。

第四  争点に対する判断

一  本件取引の経緯

次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実及び理由欄「第三 主要な争点に対する判断」の一(原判決一一枚目裏末行から一八枚目裏二行目まで)記載のとおりであるから、ここに引用する。

1  文中「原告」とあるを「被控訴人」と、「被告」とあるを「控訴人」と各訂正する。

2  一二枚目表一行目「第二」の次に「(事案の概要)」を付加し、同二行目から三行目にかけて「乙八及び乙九の各一ないし八」とあるを「乙三の一ないし七、三二の一、二、三九、四〇の一、二、四一」と、同一〇行目から一一行目にかけて「設立当初抱えていた一一億近い負債も、五年間で半分近くに減らす状態であった」とあるを「一時一一億円近くまで膨らんでいた負債も半分近くに減らす状態であった。」と各訂正する。

3  一三枚目表三行目「債務を負っている状態で、」とあるを「債務を負っており、しかも、前期(平成三年上期)に比べて約六五億円も借入金が増大し、支払利息及び割引料約二〇億円が営業利益約一九億円を上回っている状態で、」と、同四行目「陥っていた。」とあるを「陥りつつあり、現に、次期末である平成五年三月三一日の時点になると金融機関に対し約五億五〇〇〇万円もの未払が生じた。」と各訂正し、同八行目末尾の次に「ただし、平成三年九月の時点では、地価が横ばいか下落傾向で推移するとの見方が一般的ではあった。」を付加し、同一〇行目「平成三年六月から七月にかけて」とあるを「平成三年五月ころ以降、」と訂正する。

4  一四枚目表八行目「右土地は手放さず、」とあるを「右土地を売却するつもりはないと言ってこれに応じず、」と、一五枚目表末行「緊急入院したため、」とあるを「脳出血で緊急入院し、絶対安静が必要であったため、」と、一六枚目表七行目「冒頭」とあるを「右取締役会の冒頭」と、同裏九行目「公認鑑定士」とあるを「不動産鑑定士」と各訂正する。

5  一七枚目表三行目から四行目にかけて「鑑定書」の次に「(乙一)」を、同裏三行目「千代田生命保険相互会社」の前に「平成三年九月一一日、」を、同四行目「パーセント」の次に「(ただし、長期貸出標準金利[長期プライムレート]の改訂があった場合、改訂のあった日以降最初に到来する利払分からその改訂幅で改訂する。兵庫銀行の保証料は別である。)」を各付加し、一八枚目表五行目「営業利益」から六行目「減少し、」までを「入学生の大幅な減少に伴い売上高が減少し、営業利益は九四〇〇万円程度に減少し、」と訂正し、一八枚目裏一行目「甲六、」の次に「乙五〇、」を付加する。

6  一八枚目裏二行目末尾の次に改行の上以下のとおり付加する。

「控訴人らは、平成三年九月当時、ネオ・ディが右認定の営業収益や当期利益を計上していること、借入金の返済も遅滞しておらず、金融機関からも多額の追加融資がされていることを理由に同社の経営状況は悪化していない旨主張するが、右主張は理由がない。

二  本件不動産の価格

次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決事実及び理由欄「第三 主要な争点に対する判断」の二(原判決一八枚目裏四行目から二一枚目裏六行目まで)記載のとおりであるから、ここに引用する。

1  一八枚目裏四行目「鑑定の結果」とあるを「原審鑑定の結果」と、同五行目「鑑定人」とあるを「原審鑑定人」と各訂正し、同七行目「積算価額」の次に「、ただし、本件土地の価格を一平方メートル当たり四七万円と算定し、総額一億七〇九〇万六一〇〇円と算出し、本件建物の再調達原価を二億六四一二万八六〇〇円と算出した上で経年原価を控除し、二億五六二〇万四七四二円と算定し、右の合計を本件不動産の価格として算定した。)」を付加する。

2  一九枚目裏六行目「積算価額」の次に「、ただし、本件土地の価格を一平方メートル当たり四三万円と算定し、総額一億五六三六万一〇〇〇円と算出し、本件建物の再調達原価を二億八七五三万二四〇〇円と算出した上で経年原価を控除し、二億五八五七万八〇〇〇円と算定し、右の合計を本件不動産の価格として算定した。)」を付加する。

3  二〇枚目表五行目末尾の次に以下のとおり付加する。

「そして、乙一二、一三、一四の一によれば、本件土地の取得原価が九一六九万一〇〇〇円であること(ただし、千円未満切捨て。昭和六四年一月六日に取得した。)、本件建物の工事代金が二億三一七〇万円であること(ただし、千円未満切捨て。甲三によれば、平成二年八月二一日ころ完成したことが認められる。)が認められ、これは、阿部鑑定人の鑑定の結果、上田鑑定とも符合している(特に、本件建物の再調達原価が本件建物の工事代金と符合している。)。」

4  二〇枚目表六行目「一方、不動産鑑定士蔭山博は、」とあるを次のとおり訂正する。

「一方、不動産鑑定士蔭山博は、乙一(鑑定書)において、平成三年四月一日時点の本件土地の価格につき、収益価格を考慮の上、比準価格、標準価格を重視し、一平方メートル当たり六三万円と算定し、総額二億二五六四万円と算出し、本件建物の再調達原価を三億七一七六万円と算定し、経年減価の必要はないとして、本件不動産の価格を右の合計の五億九七四〇万円と算定したこと、また、本訴提起後に、前記上田節夫の鑑定書(甲一〇)及び阿部鑑定人の鑑定書に対して右乙一の正当性を裏付けるために、鑑定書(乙一一)を作成提出したが、それによれば、」

5  二〇枚目裏三行目「しかし、右蔭山鑑定には、」とあるを次のとおり訂正する。

「しかし、右乙一は、そもそも価格時点ではなく、それより五か月余り前の時点の評価である上、本件建物の再調達原価が本件建物の工事代金に比して過大であり、阿部鑑定人の鑑定の結果、上田鑑定に照らしても、価格時点の本件不動産の価格として採用することはできない。また、右乙一一については、」

6  二〇枚目裏五行目から六行目にかけて「指摘されるべきであり、」とあるを「指摘され、」と、同行目「粗利回り法」から七行目「ところ、」までを「粗利回りは、参考となる事例の不動産の粗収入を売買価格で除して求めたものを調整することで算出するものであるところ、」と、二一枚目及び七行目「蔭山鑑定」とあるを「右乙一一」と各訂正し、同行目「実際上」とあるを削除する。

7  二一枚目裏三行目と四行目の間に次のとおり付加する。

「もっとも、控訴人らは、①阿部鑑定人の鑑定においては、三件の参考となる取引事例(乙三六)を考慮しておらず、偏った取引事例を参考にしているとか、②マンションの取引事例については、単位床面積当たりの価格を比較すべきであり、右鑑定における右マンションの取引事例での土地と建物の価格の配分方法が不適切であるとか主張する。しかし、①の点については、右取引事例が適切な参考事例になると認めるに足りる証拠はなく、これを考慮していないことで、阿部鑑定人の鑑定において偏った取引事例を参考にしていることにはならないし、②の点については、控訴人ら主張のように右マンションの取引事例と本件不動産の各単位床面積当たりの価格を比較しただけでは、右鑑定におけるマンションの取引事例での土地と建物の価格の配分方法が不適切であるということができないので、控訴人らの右主張はいずれも理由がない。

また、控訴人らは、①本件不動産のネオ・ディの粗利益率が高くないこと、②本件不動産の家賃利回りが高いこと、③本件不動産の購入価格が平成二年九月八日付けでされた国土法に基づく事前確認額よりも12.2パーセント減額されていることを本件不動産の購入価格が適正であったことの根拠として主張する。しかし、①の点は何ら本件不動産の購入価格が適正であったことの根拠とならないことは明らかである。②の点についても、阿部鑑定人や上田鑑定は、本件不動産の家賃の利回りを考慮した上で適正な価格を算定しているので、右の点は、本件不動産の購入価格が適正であったことの根拠とはならない。③の点は、そもそも国土法所定の事前確認は、事前確認の申請額が相当な価額に比して著しく適正を欠く場合でない限り行われるのであるから、本件不動産の購入価格が事前確認額より減額されているからといって直ちにその価格が適正であることにはならないし、右事前確認のされた時点が平成二年九月八日であり、右事前確認の有効期限の範囲内であるとはいえ、本件取引の行われた価格時点(平成三年九月六日時点)までの間に本件不動産(特に、本件土地)の価格が下落しているのみならず、右事前確認申請額においては、本件建物の価額が四億五四八一万一〇二〇円と前記本件建物の工事代金額二億三一七〇万円より著しく増額されているが(乙三八)、控訴人らによってその合理的説明はされておらず、このような不合理な申請に基づいてされた事前確認額は、本件不動産の購入価格が適正であったことの根拠とはならないことはなお一層明らかである。」

三  争点1、2(控訴人太田を除く控訴人らの責任)について

次のとおり、付加、訂正するほかは、原判決事実及び理由欄「第三 主要な争点に対する判断」の三(原判決二一枚目裏八行目から二三枚目表八行目まで)記載のとおりであるから、ここに引用する。

1  文中「被告」とあるを「控訴人」と訂正する。

2  二二枚目表六行目「約三二パーセント」とあるを「約四七パーセント」と訂正する。

3  二二枚目表末行「ことが認められ、」から二三枚目表八行目までを次のとおり訂正する。

「こと、控訴人星野恒徳は、本件決議の資料に供された乙一の鑑定価格は、そもそも不動産の価格の下落傾向が顕著であった中での五か月余り前の時点のものであることもあって、価格時点において、その土地価格が時価に比して過大であるほか、本件建物の再調達原価もその工事代金に比して過大であり、実際の取引価格はもっと低く、右の価格で売却することが困難であることを知っており、あるいは少なくともこのことを容易に知り得たはずであるから、取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反する債務不履行があり、商法二六六条一項五号の責任を負うというべきである。また、右控訴人に終始同調した控訴人星野文子、同星野小夜子、同植田も同様というべきである。

もっとも、控訴人らは、①ネオ・ディが自動車学院の親会社であり、自動車学院の借入れ(本件不動産の購入に当たって借り入れた債務を含む。)につき物上保証人になっており、控訴人星野恒徳が右債務について連帯保証していること等から、右控訴人らが自動車学院のために不利益な行為をするはずがないとか、②現に、自動車学院の平成七年一一月三〇日までの間の本件不動産の購入による節税額及び本件不動産の家賃収入の合計額がその間の支払利息の額を上回っているとか主張する。しかし、①の点は、ネオ・ディと自動車学院は株主構成が異なり、ネオ・ディが自動車学院の完全な親会社とはいえないことに照らして、控訴人らの右の点に関する主張は理由がないし、②の点は、控訴人らの右の点に関する主張が認められるとしても、後記のとおり自動車学院が購入価格と価格時点における客観的な正常価格との差額の損害を被ったことを否定することはできないので、控訴人らの右の点に関する主張は理由がない。

そして、商法二六六条一項四号の責任と同項五号の責任は併存するというべきであり、第一及び第二免責決議は同項五号の責任を免除するものではないというべきである。すなわち、同項四号の責任は、利益相反取引が取締役会の承認を受けてされた場合であっても取締役に無過失責任を負わせるとともに、その反面、同条六項で一般の取締役の責任の場合よりも軽減された要件でその免除を認めているのであり、利益相反取引が同時に取締役の法令又は定款違反行為を構成する場合にそれを取締役の責任の場合よりも軽減された要件でその免除を認める必要はないと解される(したがって、本件において、右控訴人らにつき同項四号の責任について判断する必要はない。)。」

四  争点3(損害の有無、損害額)について

次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実及び理由欄「第三 主要な争点に対する判断」の四(原判決二三枚目表一〇行目から同裏六行目まで)記載のとおりであるから、ここに引用する。

1  文中「被告」とあるを、「控訴人」と訂正する。

2  二三枚目裏一行目「(他に」から二行目「考えられる)」までを「他に現在までの価格下落による損害等も考えられる。)」と訂正する。

3  二三枚目裏六行目末尾の次に改行の上以下のとおり付加する。

「控訴人らは、自動車学院の平成七年一一月三〇日までの間の本件不動産の購入による節税額及び本件不動産の家賃収入の合計額がその間の支払利息の額を上回っているから、本件不動産の購入価格が客観的な評価額を上回っているとしても、自動車学院に損害が生じているとはいえない旨主張する。しかし、控訴人らの主張が理由がないことは前記三で説示したとおりである。」

五  争点4(控訴人太田の責任)について

1  認定事実及び商法二六六条一項四号の責任について

次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決事実及び理由欄「第三 主要な争点に対する判断」の五1、2(原判決二三枚目裏八行目から二六枚目表四行目まで)記載のとおりであるから、ここに引用する。

(一) 文中「原告」とあるを「被控訴人」、「被告」とあるを「控訴人」と各訂正する。

(二) 二四枚目裏八行目「購入物件」の前に「本件取引の真の目的やそれが自動車学院に損害をもたらすことは知らされていないのはもちろんのこと、」を付加する。

(三) 二五枚目表六行目「購入価格」から七行目「いるので、」までを「不動産の価格については特段の知識を有しておらず、購入価格については、縦覧された鑑定書によっているので、」と訂正する。

(四) 二五枚目表一〇行目から一一行目にかけて「少なくとも表面的には、」、同裏四行目「その間、」から七行目末尾までを各削除する。

(五) 二六枚目表四行目末尾の次に改行の上以下のとおり付加する。

「のみならず、第一及び第二免責決議がされ、その取消判決が確定していない以上、現時点では、控訴人太田の同項四号の責任は免除されているというほかない。」

2  商法二六六条一項五号の責任について

取締役会の議長の権限については、商法に全く規定がないし、自動車学院の定款にも規定がなく、取締役会でこれについての決議もされていないのであるから、前記平成三年九月六日開催の取締役会における控訴人太田の議長としての権限は最小限の司会者としての権限しかないというべきである。そして、控訴人太田は、役員報酬を受給していたものの、非常勤の社外取締役であり、本件取引の真の目的やそれが自動車学院に損害をもたらすことを知らされてはいないのはもちろんのこと、本件取引の詳細を知ったのは取締役会の席上が初めてであり、不動産の価格については特段の知識を有しておらず、不動産鑑定士による鑑定書によっているので格別問題があると考えず、また、当日欠席していた被控訴人山本幸男の本件取引についての反対の理由は定款違反という点であり、この点は、控訴人星野恒徳に質し、顧問弁護士から問題ない旨助言されていることを確認した(右助言に誤りはないというべきである。)のであるから、控訴人太田が右取締役会において、慎重に審議するようにと告げただけで、取締役会の議長として、本件取引を議決に付し、自らは議長として本件決議に加わらなかったにとどまり、それ以上に本件決議により本件取引が承認されることを阻止すべき措置を講じなくても、取締役としての監視義務を怠ったことにはならないというべきである。のみならず、控訴人太田が取締役会の議長ないし取締役として本件決議に反対意見を述べても多数決で本件決議が採決されていたことは明らかであり、また、本件決議を採決に付さなかったとしても、控訴人星野恒徳は、議長を他の取締役に交替させた上で本件決議を多数決で採決したことが明らかであるから、仮に控訴人太田に監視義務違反があるとしても、右義務違反と自動車学院の損害との間に相当因果関係はないということができる。

したがって、控訴人太田には、商法二六六条一項五号の責任はないというべきである。

六  争点5(信義則違反の主張)について

本件決議のされた平成三年九月六日当時、被控訴人(兼被控訴人鹿島興産代表者)山本幸男は、ネオ・ディの取締役であったものの、本件決議のされた取締役会の招集通知書等には、賃貸収益物件の購入についてとか、重要案件と記載されているだけで、本件取引の内容やその目的が記載されておらず、同人は、脳出血で緊急入院し、絶対安静が必要であったのであるから、同人が右取締役会に欠席したのはやむを得ないことと認められ、同人が右取締役会に欠席しながら、被控訴人らにおいて本件訴訟を提起したことが信義則に違反するということはできない。

なお、取締役会については代理人による出席は認められないから、被控訴人(兼被控訴人鹿島興産代表者[ただし、当時])山本幸男の長男山本広志(現在の被控訴人鹿島興産代表者)が右取締役会に欠席したことは問題にならない。

七  争点6(控訴人太田以外の控訴人らの負担すべき損害額について)

会社に対して責任を負う取締役が数人いる場合は連帯責任を負う(商法二七八条)のであり、他に責任を負う取締役がいることが直ちに控訴人太田以外の控訴人らの負担すべき損害額を減じることにならないし、本件において信義則上減じなければならない事情も認められない。また、自動車学院が本件取引に関し第三者に損害賠償債権を有している場合、控訴人らが負担すべき損害額から右第三者に対して有する損害賠償債権の額を控除すべきであるということはできないし、本件全証拠によっても、直ちに自動車学院が兵庫県、神戸市、不動産鑑定士蔭山博に損害賠償債権を取得しているとは認められないから、右控訴人らの主張は理由がない。

八  結論

以上の次第で、被控訴人らの控訴人星野恒徳、同星野文子、同星野小夜子、同植田に対する請求はいずれも理由があるからこれを認容し、控訴人太田に対する請求は理由がないからこれを棄却すべきである。

よって、原判決中控訴人星野恒徳、同星野文子、同星野小夜子、同植田光男に関する部分は相当であり、右控訴人らの本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、原判決中控訴人太田に関する部分は不当であるからこれを取り消し、被控訴人らの右控訴人に対する請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六七条、六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中田耕三 裁判官 高橋文仲 裁判官 中村也寸志)

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